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【ウマ娘怪文書】「仮トレーナーさま〜」非常にゆっくりと、落ち着いた足取りでこちらに向かってくるのはメジロブライト。手には白く小さな花で作られた花冠が握られていた。


1: 名無しさん(仮) 2023/08/17(木)20:41:02

「仮トレーナーさま〜」
非常にゆっくりと、落ち着いた足取りでこちらに向かってくるのはメジロブライト。手には白く小さな花で作られた花冠が握られていた。
僕は片膝をついて屈み、両手を広げて彼女を迎える。ブライトは花冠を僕の頭に乗せると満足そうに笑った。
「仮トレーナーさまは、花むこさまです」
メジロ家の庭園で、大人たちが優雅なお茶会を楽しむ間、まだ幼いブライトの相手をするのも、いつか彼女のトレーナーとなる、メジロ家お抱えのトレーナー見習いである僕の役目だ。
そんな微笑ましい光景を、大人たちも談笑しながら眺めている。幸福な空間がそこにはあった。
「ありがとう、嬉しいよ。でも結婚式は大人になってからだね」
「本当ですの〜?わたくしもすてきなおむこさまといっしょでうれしいですわ〜」
数年後には彼女も、トレセン学園に入ることとなっている。そしてやがてはメジロのウマ娘として名を残す人物になるだろう。その時にトレーナーとして恥じないよう、僕も一人前のトレーナーにならなくてはいけない。




2: 名無しさん(仮) 2023/08/17(木)20:41:12

トレセン学園中等部に入学した彼女は、僕をトレーナーとして指名しトレセン学園に連れ込んだ。
名家のウマ娘はそれぞれの家庭で雇ったトレーナーを抱えていることもあり、学園にもそのトレーナーを担当として連れ込むことは珍しくもない。
しかし、幼いブライトの世話係をしていた頃は見習いに過ぎなかった僕が、彼女に指名されるだろうかという不安もあったので、こうして彼女の担当になれたことは僕にとって特別喜ばしいことであった。
これに安堵してはいけない。彼女の夢でもある、メジロ家の新たな光になるためには、ここはゴールではなくスタートでしかないのだから。
「ふふ、トレーナーさま。お顔が険しいですわ」
いつしか眉間にシワが寄っていたようだ。いたずらするように僕の手に絡みついてくすぐる彼女の尻尾で、一気にリラックス状態に戻される。
「ごめんごめん、ブライトのデビュー戦、絶対勝つぞって意気込んじゃって」
「まあ。トレーナーさまは……わたくしのことで頭がいっぱいなのですわね〜」




3: 名無しさん(仮) 2023/08/17(木)20:41:25

デビュー戦を華々しく勝利で飾った彼女は、メジロ家にブライトありと言われるその日が来るまで走り続けた。
ホープフルステークスも快勝、この結果から三冠路線を狙うがこれが見事にハマった。彼女の落ち着いて乱れないペース、高い持久力は長距離レースで遺憾なく実力を発揮した。
もちろん彼女の練習熱心さもあってこそだ。これを伝えると彼女は照れくさそうにはにかみながら「すてきなトレーナーさまがいっしょだからですわ〜」と言っていたが。
確かに、幼い頃から慣れ親しんだ間柄、最早家族兄妹のような関係の僕たちは、長く苦しい挑戦の中で彼女の支えになっているのかもしれない。
「トレーナーさま〜……式は、いつになるのでしょう〜?」
有馬記念一着を祝した記念パーティーの中で、ドレスに身を包んだブライトがそう聞いてきた。目聡い彼女のことだ、もう既にURAを視野に入れて考えている。
理事長考案の新レース、超大規模なURAファイナルズの開会式まで後数ヶ月、ここで途切れることなく進もうというわけだ。
「あとちょっとだね」
「まあ〜。わたくし、あとちょっとで18歳になりますわ〜」





4: 名無しさん(仮) 2023/08/17(木)20:41:40

URAを終えて、祝賀パーティーの中、僕は着付けに時間がかかりブライトとはぐれていた。彼女の分のノンアルコールシャンパンを持って人混みの中を探し歩く。
ようやく見つけたブライトは、同じくメジロのウマ娘。彼女の尊敬する先輩や友人たちに囲まれ談笑していた。
かつては、そのおっとりとした性格から、期待する人を落胆させてしまったことを悔やんでいたブライトが、今では立派なメジロの一員として、優駿たちと肩を並べている。
あんなに小さかったのに、大きくなって。フラッシュバックする幼い彼女との思い出に、じわっと目頭が熱くなってくるのをゴシゴシと擦って誤魔化した。
僕に気がついたブライトが、こちらに歩いてくる。幼いあの頃のような歩みに、堪えていた涙がまた溢れ出そうになり、慌てて目を固く瞑った。
「トレーナーさま〜。わたくし、メジロ家の光になれたでしょうか〜」




5: 名無しさん(仮) 2023/08/17(木)20:41:50

「うん、うん……」
シャンパンを渡して、涙を堪える。ブライトは不思議そうにこちらを見上げている。君の祝いの日に涙は似合わないから、笑ってお祝いしようと思っていたのに。
「おめでとう。本当におめでとう」
「ありがとうございますわ〜。あとは式のことなのですが〜」
最後まで聞けなかった。鼻をすすりながら、涙を抑えて彼女に背を向ける。
「ごめん、後でLANEする」
ついに頬を伝い出した涙を見せないように、会場から逃げ去った。せっかくの彼女の祝賀会に、泣いてる情けないトレーナーで邪魔したくなかった。




6: 名無しさん(仮) 2023/08/17(木)20:42:01

メジロ家敷地内、庭園から少し進んだ離れにあるお抱えトレーナーのための家。僕は寝室に戻り、スーツとネクタイを乱雑にベッドに放り投げ、窓辺に手をついて呼吸を整えていた。
泣くな、かわいい教え子の祝いの日じゃないか。けれども、これから彼女はメジロ家の一員として僕から巣立っていくことを思うと、胸のうちに寂しさが込み上げてくる。
誤魔化すようにペットボトルの水を喉を鳴らして飲み干すと、不意に背後でノックの音がした。
「トレーナーさま〜」
ブライトだった。返事をすると寝間着姿の彼女が入ってくる。パーティーはもう終わったのか、僕が変な立ち去り方をしたせいで心配させたのか、と思案しながら彼女に歩み寄った。
「ごめん気遣わせちゃって、君の成長した姿を見てると色々思い出して涙が出ちゃってさ」
「まあ。それではトレーナーさまは、わたくしのことがお嫌いになったのではないのですね〜」
「そんなわけないじゃん!君は僕の大好きな、メジロブライトだよ」
つい否定したくて、勢いよく彼女の肩を握ってしまったが、ブライトは逆に僕の胸に手と頬を当てて体を預けてくる。




7: 名無しさん(仮) 2023/08/17(木)20:42:11

よく見れば、寝間着はレースのネグリジェで、照明もつけない部屋の中、窓から差し込む月光に照らされ彼女のスタイルをくっきり表していた。
途端に状況が危ういことを認識し、言葉に詰まりながら彼女の肩から離した手を宙で泳がしていると、胸元のブライトがこちらを見上げて告げた。
「わたくし、もう大人ですわ」
「え?ああ…そう…だね」
ブライトの手が、僕の体を押す。ぐいぐいと押され、少しづつ後退した先にあったベッドに足を引っ掛けて、彼女ごと背後に倒れ込んだ。
目を開けば、仰向けに倒れる僕の体の上に、月光で煌めくネグリジェ姿のブライトが居た。その美しさにひゅっと息を呑む。微睡んだ瞳が僕を優しく見下ろしていた。




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