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【ウマ娘怪文書】俺は闇のトレーナー。純粋にウマ娘たちの夢を応援するのではなく、自らの欲望──ただ単に儲けたくてトレーナーになった。人との絆がウマ娘を強くする、なんて迷信もあるけれど、俺と彼女達のチームはビジネスパートナーのようなものだ


1: 名無しさん(仮) 2023/04/15(土)00:44:33

俺は闇のトレーナー。
純粋にウマ娘たちの夢を応援するのではなく、自らの欲望──ただ単に儲けたくてトレーナーになった。人との絆がウマ娘を強くする、なんて迷信もあるけれど、俺と彼女達のチームはビジネスパートナーのようなものだ。

「ククク……お陰でたんまり儲けさせてもらったがな……」

夕陽は沈み、多くの生徒たちが寝静まった頃。
闇のトレーナーとしての一仕事を終え、がらんとしたトレーナー室を後にする。今からする事を担当の子たち──特に、シリウスに知られたら面倒なことになるだろう。
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2: 名無しさん(仮) 2023/04/15(土)00:45:07

『返して欲しけりゃそれ相応の態度ってもんがあるだろう?』

俺の最初の担当にしてチームのリーダー的存在、シリウスシンボリ。彼女との出会いは俺が落としたトレーナーバッジを彼女が偶然拾ったことから始まった。
中庭でこれ見よがしにバッジに陽射しを反射して見せるシリウス。その口角は悪戯心で歪んでいた。

『わかった。何なら靴も舐めようか』
『……オイオイ』

そんな彼女に迷わず俺は土下座をした。足を舐めるのも辞さなかった。舐められたら負けだと思ったのである。
周囲の生徒たちとシリウス本人からは少し引かれたが、バッジは返して貰えたし、これがきっかけとなって彼女の興味を引くことが出来たのだから結果オーライとなった。

『プライドが無い……わけじゃねえな。妙にギラついてやがる……おもしれーヤツ』




3: 名無しさん(仮) 2023/04/15(土)00:45:45

シリウスと担当契約を結べたのは俺にとって幸運だった。シンボリの名は有名であったし、天辺に食らい付く気概のあるウマ娘は儲けるのにピッタリだと思った。
それに実力は申し分なかったし、彼女との切磋琢磨の日々はその後のトレーナー業で必要となるスキルを多く身に付けることができた。
例えば、ポーカーで精神力を鍛えたり──

『これで18戦18敗。アンタ賭け向いてねぇな』『ククク……ぐぐぐ……!』

例えば、シリウスの指導でテーブルマナーを身に付けたり──

『一つミスるたびに一品メニューを減らす……そういう話だったが、水すら飲めねえな。このままじゃ』『ぐぬぬぬ……!』

例えば、ダンスを教わったり──

『ほら、あんよが上手……ってな。クク、アンタなら亀くらいはリードできるかもな?』『ククク……ま、まだまだ……!』





4: 名無しさん(仮) 2023/04/15(土)00:46:17

そしてこの時期に何よりも嬉しかったのは、シリウスがダービーウマ娘となったこと。
必ず勝つと信じていた。彼女の力を疑っていた訳ではなかった。
だけど、いざ実際に、電光掲示板にシリウスの番号が表示されると感情が抑えられなくなって──

『シリウスー! やった! ありがとう! おめでとうー!』
『っ!?……ハッ、言っただろうが。頂点ぐらい、すぐに取ってやるってな』

つい、彼女に思いっきり抱き着いてしまった。呆れながらも抱擁を返してくれたので、シリウスも悪い気はしていなかったのだと思いたい。
そして、ダービーを勝ち取った後はシリウスと共に世界を目指すことにした。今では海外遠征で結果を残したウマ娘も増えたが、当時のトゥインクル・シリーズでは挑んでは尽く散っていく夢の方が多かった。
だが、シリウスなら。
シリウスなら或いはやってくれると、俺たちは海外へと旅立ち──




5: 名無しさん(仮) 2023/04/15(土)00:46:42

──フォワ賞2着。
それが、シリウスと俺が残せた海外遠征での一番の着順だった。
当時のトゥインクル・シリーズから海外へと挑んだウマ娘の中では大健闘した方ではあるが、慰めにはならない。俺はシリウスに世界を、凱旋門を取らせるどころか、結果を残せなかった。闇のトレーナーが聞いて呆れる戦果だ。

『シリウスシンボリは全盛期を過ぎている』『今は新しいスターの時代』

巷で囁かれる風説も、許せなかった。確かに海外から戻ってきてからはシリウスの同期はドリーム・トロフィーに移籍した者や引退者が多く、更にシリウスも苦戦することになったが──まだ、彼女は終わっていない。
俺は、俺にできることを考えた。彼女との経験を活かし、俺にできることを。




6: 名無しさん(仮) 2023/04/15(土)00:48:11

『シリウス、今日からトレーニングを変えよう』

トレセン学園の他のトレーナーになく、俺だけにあるもの。それはシリウスとの日々で養われた度胸と、そして海外を渡り歩いたことで生まれた各地のトレーナーとのコネだ。
三冠ウマ娘を輩出した『シンボリ』の名はハッタリとして申し分なかった。俺自身は新人でも自信満々な態度を貫き通せば案外なんとかなるものである。
重要なのは、『コイツなら何かやってくれるに違いない』と思わせることで──シリウスというこの上ないお手本がいた俺には容易いことだった。
そんな訳で海外のトップトレーナー達と結んだコネから学んだ知識や、時にはリモート会議で意見を交わし、時にはフォームを修正し、シリウスに最適なトレーニングプランを組んで行った。
睡眠時間が削られ、トレーナー室で寝落ちしてしまうことも何度かあったが──

『……隠すなら最後まで隠し通せ。クマなんか作ってんじゃねえよ』
『……世界一の贅沢モノだな、アンタは。何を枕にしてんのかわかってんのか?……ま、聞こえちゃいねぇか』

──不思議と、目覚めた時に疲れは感じなかった。どこか心地良い香りに包まれて、起きた時は気力が充実していた。




7: 名無しさん(仮) 2023/04/15(土)00:48:49

恐らく闇のトレーナーとしての気力が俺を突き動かしていたのだろう。再びシリウスの名を、一等星の輝きを世に知らしめるには、どれだけ自分を燃やしても足りないのだから。
そして──

『大外シンボリ! 何とシリウスシンボリだ!! 前の二人を捩じ伏せて、ダービーウマ娘の意地を見せた!!』

忘れもしない、あの秋の天皇賞。
世間がみんな芦毛の二人に夢中になって、実況も、そして多くの観客達も彼女達のどちらかが勝つと思って、それでもシリウスが勝った。

『ジリ゛ウ゛ス゛……ッ! お゛め゛でど……っ!』
『……ったく、何だよそのツラは。天辺なんて取ってやるって、言っただろうが』

この時の俺の顔がレース映像を振り返る時の記録媒体に残ってしまい、その度にシリウスに弄られることになってしまったのは一生の不覚である。
闇のトレーナーたるもの、担当ウマ娘に舐められては失格だ。




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