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【ウマ娘怪文書】トレセン学園のカリキュラムは当然レースを中心に作られてはいるが、もちろん基本的な教科に加えて、音楽やレースとは違う通常の体育などもきちんと取り入られている。


1: 名無しさん(仮) 2022/04/12(火)23:51:58

トレセン学園のカリキュラムは当然レースを中心に作られてはいるが、もちろん基本的な教科に加えて、音楽やレースとは違う通常の体育などもきちんと取り入られている。
その中でフジキセキが席を置いているクラスの今日の三限目は隔週で行われる美術であった。
美術の担当教師は中々評判が良い。技術よりも興味を優先するような授業で、軽くかつフランクに授業を進めるので毎回授業というよりはお絵描き教室のような雰囲気で進むから生徒達からは好まれている。それに中々の美人だ。
しかしそんな教師が授業開始のベルが美術室に鳴り響いても姿を現さないので、教室は軽い困惑と期待でざわつき始めていた。
「時間にルーズな女性じゃなさそうなんだけどな…」
「どうするフジ、職員室行ってみる?」
「そうしようか。私が……いや。その必要はなくなったみたいだ」
クラスメイトの声に答えながら、席を立とうとするフジキセキの耳に廊下を走ってくる慌ただしい足音が聞こえて、そのまま席に座り直す。しかし女性にしては足音が重いね。
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2: 名無しさん(仮) 2022/04/12(火)23:52:15

そんなフジキセキの疑問はすぐに解消された。入ってきたのが男だったからだ、しかもついでに躓いて転んで大量のスケッチブックと鉛筆の山に埋もれる形で。
「えっ」
フジキセキは眼を丸くしたが、それは他のウマ娘のように美術教師ではない男が行き成り転びながら入ってきたことではなく、その男がトレーナーの顔つきにそっくりだったからだ。ついでに言えば背丈もどこかドジな所も似ている。
「ふふっ、サプライズにしては少しばかり過激じゃないかい、トレーナーさん?」
不審者かと周りを囲むウマ娘の間を縫って、画材で出来た前衛的オブジェクトみたいな恰好になっているトレーナーをみてくすりと笑いながらフジキセキが声をかけた。
「や、やぁフジキセキ……実は今週外せない出張があるからって、頼まれててね」
「へぇ! トレーナーさんは美術の心得があるのかい?」
「まぁ美術大学出身ってわけじゃないけどね、そういう免許は持ってるよ。今日は休みの日だったから完全に油断してて……遅れてごめん」
「まだ五分ぐらいだよ。授業には問題ないさ、それよりも……ほら、まずは立ち上がらないと」




3: 名無しさん(仮) 2022/04/12(火)23:52:37

フジキセキが跪いて王子様のようにトレーナーに手を差し出す。未だにひっくり返っているトレーナーは自分の状況を改めて理解したようで真っ赤になりながらフジキセキの手を取った。
鉛筆をがらがらと落としながらフジキセキのトレーナーが立ち上がると、数人のウマ娘がトレーナーを見て喉仏を上下させた。その風貌は意外にもフジが少し見上げるほど背が高い、すらりとしているがやせ型ではなく体はトレーナーらしく引き締まっているのが分かる。というのもトレーナーの出で立ちはジーパンに黒いニットのセーターというラフな出で立ちだったからだ。いつもはかけていない野暮ったい眼鏡も、その奥の少し煌めくようにも見える潤いたっぷりの眼のアクセントに一役買っているようだった。
「……軽め服装だね。こういうの、初めて見た気がするよ」
「部屋着みたいなものさ。もうギリギリに気づいてスーツに着替える時間がなくて……みっともないかな?」
「全然! むしろトレーナーさんの生活の一面を見れた気がして私としては嬉しいかな? 独り占めできなかったのは少し残念だけど」
「あ、あはは……相変わらずイケメンだね」





4: 名無しさん(仮) 2022/04/12(火)23:53:09

フジキセキのウィンクともにきゃあとふざけるように黄色い声が上がって、トレーナーは顔を赤くしながら癖のある髪をかき上げつつ、周りに声をかけた。
「さてと、えっと……今日は相互デッサンをしてほしいという話だったから。ペアを組んでほしいんだけど、先生はいつもどうしているんだい?」
「自由にみんなで決めたりするよ。私のクラスは奇数名だから、先生も参加するんだけど、結構な人気だからその時はくじ引きで決めてたりするんだ。どうせなら今日もそうするべきじゃないかな? くじも私が作るよ」
「じゃあそうしようか。でも、くじまで作ってらうのは何だか悪い気がするなぁ……今日一日だけど俺も教師なんだし」
「大丈夫大丈夫! トレーナーさんは私のクラスメイトに自己紹介でもしてほしいな。それに、教師は生徒にお手伝いさせるものだろう? せんせい?」
もう一度きゃあという歓声が上がって、トレーナーは自分がいつも通り手玉に取られるのを感じながら落ちた鉛筆やらを拾い始めた。




5: 名無しさん(仮) 2022/04/12(火)23:53:44

こういうことに関しては自分は一生勝てることができなんだろうな、しかし今日は少し暑いな。とトレーナーは思ったが、それは数人のウマ娘の熱心な視線のせいかもしれない。
やがてそれぞれの生徒の出席番号が割り振られたくじが出来上がるが、トレーナーはまたみんなの黄色い声を浴びることになる。それがフジキセキのものだったからだ。

「さて、先生? 相手の似顔絵を描くコツは?」
「相手から下手くそに描かれても怒らないことかな?」
向かい合ったフジキセキはトレーナーの意外な答えに、思わず口元に手をそえた。
教室は時々飛んでくる質問以外は賑やかな雑談を共としていて、それぞれが対面で手元のスケッチブックに相手の顔を描いている。静寂とペアを組んでいそうな美術だけど、今日は集中して描くというより、スラスラと軽い気持ちで書いてみようというのが特別講師の言だった。
「ふふ、技術的なことを教えてもらえると思ったんだけどね」
「変なことを言って先生から怒られるのも嫌だしね」




6: 名無しさん(仮) 2022/04/12(火)23:54:25

トレーナーは流石に免許をも持っていると言っていたからか、スラスラと鉛筆を白い紙に滑らせている。フジキセキと違って顔を上げないのでペアの相手としては少々困ってしまう。
「トレーナーさん、少しこちらにも顔を向けてくれるかい? スケッチブックの中の私に嫉妬してしまいそうだ」
「……ん? あ! ごめんごめん、描きにくかったね」
「やっぱり慣れてる人は、あまり見なくても描けるものなのかい?」
「うーん、俺の場合はフジと良く顔を合わせてるからかな。イメージしやすいというか」
「じゃあトレーナーさんは夜、眼を閉じていても私の顔を鮮明に思い出せるということかな? なんだか照れるね」
「そういう日はだいたいそのまま君の夢を見るよ」
フジキセキの手に力が入って、折角綺麗に伸びていた黒線が濃くぐにゃりと曲がってしまった。
「なんて、少しクサすぎたかな。フジのようには上手くいかないや」
そういって照れ臭そうに笑うと、またトレーナーはスケッチブックに顔を向けた。今度はフジキセキも書きやすいように、少しだけしか傾けていない。




7: 名無しさん(仮) 2022/04/12(火)23:54:52

「しかし、あの先生と知り合いだなんてトレーナーさんも隅におけないね」
ふと、プライベートなことだとは思ったが、一度考えてしまうと好奇心に勝てずにフジキセキは口を開いた。
「幼いころ美術教室が一緒でね。此処で知り合った時はビックリしたなぁ、今でも時々飲みに行ったりするよ」
「……それはそれは。運命的な出会いだね、そのまま素敵な出会いになれるんじゃないかい?」
いけないな、これは私らしくない。と鉛筆を滑らせながらフジキセキは、少し当てつけのような言い方になった自分を戒めた。どうにもこの人を前にすると一人の少女の面が前に出すぎてしまう、それは彼のせいかな? それとも……。
「ははは、いやいや、それはないよ」
「へぇ、それはどうして?」
「だって、フジキセキがいるじゃないか」
近くで聞いたウマ娘たちの顔がばばっと一気にトレーナーへと向いた。にぎやかな教室がしんと静まったので、絵に集中していた男は眼を丸くして顔を上げて、自分に寄せられた視線にえっと声を出した。




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