【ウマ娘怪文書】身体に染み込ませた技術というものは、長い時間が経っても意外と覚えているもので。「うん! 実に素晴らしい演奏会でした! キミを私専属の音楽家に任命します♪」
2: 名無しさん(仮) 2022/11/01(火)12:19:04
廊下を歩いていたら、ダイイチルビーの演奏するバイオリンの音色が聞こえて──ふと、懐かしいな、と呟いたのがことの始まり。
「ラーメンにバイオリンに……キミって何でもできちゃうんだね」
「そんなことはないよ……君が一番知ってるだろ」
「ふふ、どうかしら♪」
そこから、どのように情報が伝わったのか。いきなりファインに呼び出され、バイオリンを手渡されて。
私のために、一曲奏でてくださる?──だなんて上目遣いにお願いされれば、拒むことなどできるはずもなく。
3: 名無しさん(仮) 2022/11/01(火)12:19:21
「まあ、でも……これでも昔はコンクールで優勝したこともあるんだよ」
「そうだね! それもお義母さまから動画を見せてもらったけど見事な演奏だったよ! 小さい頃のキミも、お持ち帰りしたいなって♪」
「ん?……まあ、ちょっと、恥ずかしいな」
『おかあさま』のニュアンスに何処となく違和感を感じながら、照れ臭さに頬をかく。
「ねえ、どうしてキミはトレーナーになったの? バイオリニストにはなりたいと思わなかったの?」
「まぁ、そうだね。小さい頃はそのつもりだったけど……」
4: 名無しさん(仮) 2022/11/01(火)12:19:42
もうだいぶ前の話。
毎日夢中でバイオリンを弾いていた俺は、ある日自分の使用しているバイオリンの弓がウマ娘の尻尾から作られていることを知った。
こんな綺麗な音色を響かせてくれるウマ娘という存在。テレビでは見たことあるけど、どんなものなんだろう?
気になった俺は、親に頼んでレース場に連れて行ってもらって──
「そこで、走るウマ娘の姿に見惚れて、もうそれしか考えられなくなって……まあ、惚れっぽい性格だったんだ」
おれ、トレーナーになる!──などと。いきなりバイオリンを辞めてトレーナーを目指した当時の俺を応援してくれた両親には頭が上がらない。
「へえ、そうなんだ……それで、どうかな? またバイオリンを弾いて、そっちに夢中になっちゃった?」
「まさか。今はウマ娘一筋だよ」
「ふふ、そうだよね♪」
5: 名無しさん(仮) 2022/11/01(火)12:19:54
より正確に言えば、今は『ファインモーション一筋』でもあるが、それを伝えるのは些か以上に小っ恥ずかしい。
そんな俺の内心を知ってから知らずか、ファインは両手のひらを合わせて微笑んで見つめてくる。
「……ふふ。でも、このバイオリンで音色を奏でてくれるなら。その一時だけはレースから演奏に目移りしてもいいんだよ?」
「え?」
机の上に置いたバイオリンの弓を、ファインは俺の手に握らせる。
指の一本一本で、その手触りを確認させるように──俺と手を重ね合わせる。
6: 名無しさん(仮) 2022/11/01(火)12:20:11
「……ふふ、ねえ。このバイオリンの弓……誰の尻尾で、出来てると思う?」
視界の隅で、ファインの艶々の尻尾が揺れて。
手の中のバイオリンの弓が、どことなく重くなったような──指に絡み付いてくるような錯覚を覚えた。
7: 名無しさん(仮) 2022/11/01(火)12:24:23
尻尾を贈り物にする文化とかあるのかなあの世界